カリブ海地域の東端、大西洋に浮かぶ島国バルバドス。
ここには、家そのものを別の場所へ移して暮らしてきた歴史があります。
チャテルハウス(Chattel House)と呼ばれる、小さな木の家。
色鮮やかな板張りの外壁に切妻屋根。窓や庇に細かな飾りがついたものもあり、今ではバルバドスらしい風景のひとつになっています。
この家が広がったのは、奴隷制廃止後の19世紀。特に19世紀後半から20世紀初めにかけて、土地を借りて暮らす労働者の家として使われました。
そして、この家には大きな特徴がありました。必要になれば、家そのものを別の土地へ移せたことです。

土地を離れるなら、家も動かす
解放された人々の多くは、自分の土地を持たず、プランテーションの土地を借りて暮らしていました。
借りた土地に、自分の家を建てる。仕事が変わったり、その土地を離れたりするときは、家も移す。チャテルハウスはそのために解体しやすく、部材を別の場所で組み直せるようにつくられていました。昔はラバの荷車、のちにはトラックで運んだと記録されています。
家の下を見ると、その考え方がよく分かります。木の家を石やブロックの上に載せ、地面に深く固定しない例が残っています。
石の上に載る足元

板張りと切妻屋根

土地は借りていても、家は自分のもの。住む場所が変われば、家も一緒に移す。
UNESCOの資料には、中古のチャテルハウスを買い、自分の土地へ移して使った家族の記録もあります。移したあと、家族が増えると寝室や食事の場所を少しずつ増築。長く伸びて「チャテル・トレイン」と呼ばれるほどになった家もありました。
最初から完成した大きな家を建てるというより、そのときの暮らしに合わせて家の方を変えていく。移す。足す。傷んだところは直す。そんな使い方のできる木の家でした。

動かす家から、残したい家へ
チャテルハウスは20世紀に入ってからも使われ、家族や暮らしに合わせて形を変えてきました。
一方で、住宅にはコンクリートを組み合わせる例も増え、昔ながらのチャテルハウスは少しずつ姿を減らしていきます。
バルバドス・ナショナル・トラストは、1980〜90年代にはチャテルハウスが急速に消えつつあったと説明しています。タイロル・コットには、その住宅文化を残すためのヘリテージ・ビレッジがつくられ、1920年代のチャテルハウスも展示されています。
それでも今も、住宅として使われるもの、店など別の用途になったもの、保存されたものが島に残っています。
島に残る住宅景観

保存されたチャテルハウス

かつて「必要なら動かせる家」だった建物が、今では残したいバルバドスの風景にもなっています。
そこで気になったのが、今の住宅に木がどれくらい残っているのか、ということでした。
43.5%は、木造率ではなかった
2010年の国勢調査には、住宅の外壁材料を分けた表があります。Wood 14,751戸、Wood & Concrete Block 14,114戸、Wood & Concrete 5,475戸。3区分を合わせると、占有住宅78,936戸のうち34,340戸。約43.5%です。
最初は「バルバドスの住宅って、4割以上が木造なの?」と思いました。ところが、表が数えていたのは建物の構造ではなく、外壁の材料。43.5%は、木を含む外壁材料の区分を合計した数字でした。
2021年の国勢調査にも、Wood Timber、Wood & Concrete、Wood Timber & Concrete Blockという区分があります。この3区分は占有住宅61,627戸のうち18,775戸。約30.5%です。
ただし、2010年と2021年では分類名や区切り方が完全には同じではありません。「43.5%から30.5%へ減った」と単純には比べず、どちらも木を含む外壁材料の数字として読みます。
世界の木造住宅を調べていると、構造そのものが木造でなくても、外壁に木を使う家は意外と多く出てきます。石やコンクリートと木を組み合わせた家も珍しくありません。
チャテルハウスのような木の家がある一方、統計に出てくる「木」はすべてチャテルハウスでも、すべて木造住宅でもない。バルバドスの43.5%は、その違いがよく見える数字でした。
19世紀には、土地を離れるときに家も移した。今はコンクリートと木を組み合わせる住宅も多い。それでも、木はバルバドスの住まいから消えていません。
家を丸ごと動かした時代から、木と別の材料を組み合わせる今へ。チャテルハウスを追うと、島で木が使われてきた時間が少し見えてきます。
出典・参考
- UNESCO World Heritage Papers 15|The use of timber in Barbados: the case of the chattel house
- UNESCO|Chattel house / Historic Bridgetown evaluation materials
- Barbados Statistical Service|2010 Population and Housing Census Vol.1
- Barbados Statistical Service|2010 Census Questionnaire
- Barbados Statistical Service|2021 Population and Housing Census
- Barbados National Trust|Tyrol Cot Heritage Village
