ボルグン・スターヴ教会
黒い屋根と竜頭が目を引くボルグン・スターヴ教会。内部には柱と斜材を組み合わせた骨組みが残っています。
ボルグン / ノルウェー・レールダル
1180年代の木造教会

ノルウェー西部、レールダルの谷。草地の向こうに、黒い屋根を幾重にも重ねた教会が立っています。棟の先には竜の頭まで。12世紀後半につくられた、ボルグン・スターヴ教会です。
これほど手の込んだ建物が、宮殿でも城でもなく、村の教会でした。19世紀まで、近くの人たちが礼拝に通った場所です。

七段の屋根と竜の頭
上から見ると、中央の高い屋根を低い屋根が取り囲み、その外側を回廊の屋根がぐるりと巡っています。木の表面を黒くしているのは、風雨から守るために繰り返し塗られてきたタールです。


棟の先から飛び出す竜頭は、この教会の目印のような存在です。ただ、いま見られる竜頭や棟飾りのすべてが12世紀のものではありません。修理の際に取り替えられた部分もあります。

入口を埋め尽くす木彫り
入口の枠には、蔓草や動物が絡み合う模様がびっしり彫り込まれています。遠くからは黒い壁に見えていたところも、近づけば彫りの深さまで分かります。北欧の古い木彫りの意匠が、キリスト教の教会の入口を飾っています。


柱と斜材で組まれた堂内
堂内では、中央の高い空間を柱が囲み、その柱同士を横材と斜めの補強材がつないでいます。壁には縦板。こうした柱を中心とする伝統的な木組みは、スターヴェルク(stavverk)と呼ばれます。

柱の間では斜材が交差し、十字の形になっています。聖アンデレ十字と呼ばれる補強材です。頭上のアーチには彫刻も施され、木組みの細部まで丁寧につくられています。


曲がった木と、船づくり
木の根元にある自然な曲がりを、そのまま補強材に利用しているところもあります。建築調査で確認された数は154個。似た使い方は、ヴァイキング時代の船の骨組みにも見られます。


屋根板を留める木栓は、1万本以上。あの複雑な屋根の下には、一本ずつ加工された小さな木の部品が、これだけ使われています。

村の教会だった、約700年
堂内の礼拝空間は約40㎡。外から見上げる大きな屋根に比べて、意外とこぢんまりしています。聖アンデレに捧げられ、村の人たちが礼拝に集まった場所です。祭壇には1654年の祭壇画も残っています。

木材の年輪を調べると、主要な材は1180〜1181年の冬に伐採されたことが分かっています。建物が完成した年そのものではありませんが、建築年代を考える手掛かりになります。

1868年、隣に新しい教会が建った
19世紀になると古い教会は手狭になり、1868年、すぐ隣に新しい教会が完成しました。古い建物は取り壊されず、1877年から文化財保存団体が所有しています。

いまの堂内も、すべてが中世のままではありません。1870年代の修復では、後世に加えられた天井や桟敷席が取り外されました。柱と屋根組みがよく見える現在の姿は、その修復を経たものです。
建物データ
| 国 | ノルウェー |
|---|---|
| 所在地 | ノルウェー・レールダル(ボルグン) |
| 年代 | 12世紀後半(伐採材は1180〜1181年の冬) |
| 用途 | 木造教会/1868年まで村の教会として使用 |
| 構法 | スターヴ式木造(柱・梁・斜材・縦板による木組み) |
| LL分類 | TIMBER |
| 保存 | 現地保存/1877年から文化財保存団体が所有 |
写真クレジット・出典
山あいに立つ、12世紀の木造教会。
Ragnebl / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0 元ページ ↗
教会を上から。幾重にも重なる屋根が見える。
CucombreLibre / Wikimedia Commons / CC BY 2.0 元ページ ↗
小さな屋根が何枚も重なっている。
Phinken / Wikimedia Commons / CC0 1.0 元ページ ↗
棟の先の竜頭。
Bjørn Erik Pedersen / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0 元ページ ↗
入口を囲む木彫り。
hirodusk / Wikimedia Commons / CC BY 2.0 元ページ ↗
屋根を覆う、薄い木の板。
Micha L. Rieser / Wikimedia Commons / Attribution only 元ページ ↗
屋根の裏まで木で組まれている。
Micha L. Rieser / Wikimedia Commons / Attribution only 元ページ ↗
屋根板などを留める木栓。
Micha L. Rieser / Wikimedia Commons / Attribution only 元ページ ↗
柱頭の彫刻。
Micha L. Rieser / Wikimedia Commons / Attribution only 元ページ ↗
1857年の旅行記に載った教会のスケッチ。
Charles Loring Brace / Wikimedia Commons / Public domain 元ページ ↗
1868年に建てられた新しい教会が隣に並ぶ。
Petr Šmerkl, Wikipedia / CC BY-SA 3.0 元ページ ↗
中央の高い部分を柱が囲む。堂内の木組み。
Stevan Nicholas / Wikimedia Commons / CC BY 2.0 元ページ ↗
教会の祭壇。
Bjørn Erik Pedersen / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0 元ページ ↗
柱をつなぐ、聖アンデレ十字の補強材。
Pmmy49 / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0 元ページ ↗
入口の彫刻をさらに近くで。
Bjørn Erik Pedersen / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0 元ページ ↗
19世紀の建築家 G. A. ブルが描いた、堂内の木組み。
Georg Andreas Bull / Wikimedia Commons / Public domain 元ページ ↗
主な出典
ノルウェー文化遺産保護協会:ボルグン・スターヴ教会|https://fortidsminneforeningen.no/en/museum/borgund-stave-church/
ノルウェー文化遺産保護協会:ボルグンの建築調査|https://fortidsminneforeningen.no/en/news/digitale-borgund/
ノルウェー大百科事典:Borgund stavkirke|https://snl.no/Borgund_stavkirke
ノルウェー文化遺産局:スターヴ教会|https://riksantikvaren.no/arbeidsomrader/stavkirker/
