スイスのバレンベルク野外博物館に、築690年の木の家があります。 建てられたのは1336年。2026年で、ちょうど690年です。 日本では、鎌倉幕府が滅んで3年後。 もとは中央スイスのシュヴィーツにあった住宅で、木の年輪を調べると、使われた材は1330年代に伐られたことが分かっています。 700年近く前の家ですが、ずっと同じ姿だったわけではありません。
700年のあいだに、家も変わった
この家には、人が住み続けた時間がそのまま残っています。 1400年ごろにはストーブが入り、1700年以降には大きな窓がつくられました。一方で、建築当初の小さな窓も残っています。 冬には小さな開口を板や詰め物で塞ぎ、半透明の動物の皮などで光を取り入れることもありました。 さらに、厚い床板の端には約680年残った部分があります。 「古い家が残る」というより、人が暮らしながら変え続けた家の中に、古い部分が残っている。そんな家です。

壁を見ると、木を積んでいる
この家の壁は、四角く加工した木を横に重ねてつくられています。 中央スイスで使われてきた、ブロックバウと呼ばれるつくり方です。 丸太そのままではありません。 それでも、木を横に積み、その木自体が壁になる。ブロックバウはログ構法の一つです。 角では材同士を組み合わせていますが、この家でどんな形の接合が使われていたのかまでは、公開資料では確認できませんでした。 現代の丸太ログと同じ見た目ではなくても、壁のつくり方を見ると同じ仲間だと分かります。

博物館が選んだのは、1336年ではなく1400年ごろ
この家は20世紀に解体され、1995〜96年にバレンベルクで組み直されました。 そのとき、建てられた1336年そのままではなく、1400年ごろの姿を見せることが選ばれています。 700年近い歴史の、どの時点を「この家の姿」とするのか。 建物に残った痕跡や調査結果をもとに、その時代まで戻しています。家具も、正確に再現するための情報が残っていないものは置かれていません。 分からないところを、それらしく埋めない。 古い家を復元して見せるときにも、そんな選択があります。

トイレの跡まで残っていた
さらに壁には、中世の暮らしの跡まで残っています。 西側の小さな四角い穴は、一時期、小便をするために使われた可能性があります。台所の別の扉は、家の外側につくられたトイレへ通じていました。 暖房を入れる。窓を大きくする。冬は開口を塞ぐ。トイレも使う。 1336年の木材だけが残った家ではなく、何世代もの暮らしと改変が重なった家です。 築690年という数字もすごい。でも、その間ずっと手を入れながら使われてきたことの方が、この家の面白さかもしれません。
